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大阪地方裁判所 昭和52年(ワ)3654号 判決 1979年2月16日

原告

株式会社大築

右訴訟代理人

村林隆一

外七名

被告

大阪ロイヤル株式会社

被告

国際鋲螺株式会社

右被告両名訴訟代理人

及川昭二

主文

1  被告大阪ロイヤル株式会社は別紙目録(イ)の釘を、被告国際鋲螺株式会社は別紙目録(ロ)の釘を製作し、譲渡し、貸し渡してはならない。

2  被告両名は前項の各釘を廃棄しなければならない。

3  訴訟費用は被告両名の負担とする。

事実《省略》

理由

一原告主張の請求原因一(原告が本件特許権を有すること)、二(本件特許権の構成要件と作用効果)、三(被告大阪ロイヤルがイ号物件を、同国際鋲螺がロ号物件を各製造販売等していることおよびイ、ロ号物件の機能、用法、効果)の各事実は当事者間に争いがない。

右の事実によると、本件特許は方法の発明についてなされている場合であることおよび被告ら製造販売にかかるイ、ロ号物件はいずれも右特許の構成要件(ロ)にいう「合成樹脂系弾性材による柱状の圧着材を中間に備へた釘」に該当し、まさに本件特許方法の実施に使用する物であることが明らかである。

二原告は、右イ、ロ号物件は本件特許発明の実施にのみ使用する物であると主張し、被告らはこれを争いイ、ロ号物件の使用方法は多様である旨主張しているので、以下その当否について検討する。

1  特許法一〇一条二号所定の間接侵害の存否に関し、当該方法特許の実施に使用する物についてはたして「他の用途」があるかどうかを決するためには次のような点が考慮されるべきである。すなわち、

まず、一般に、物にはそれが製造された目的、その物の有する機能等に由来してその物に備わつた特性に適わしい本来の用途があると考えられる。方法特許の構成要件に組込まれた物もまさに右の意味において当該方法発明の実施に適合するものとして考えられた技術的所産であるはずである。したがつて、特許法一〇一条二号にその物の「使用」というのも当該発明の一環としてその実施に最も適わしい本来の用法を指していると解される。

してみると、右法条号の解釈に関連して当該物の「他の用途」(他の使用法)の存否を検討するにさいしても、これと同じように、その存在を肯定するためには、単にその物が「他の用途」に使えば使いうるといつた程度の実験的または一時的な使用の可能性があるだけでは足りないことはもちろん(身近な例として洗濯ばさみを文具用の紙ばさみに用いるが如き場合参照)、「他の用途」が商業的、経済的にも実用性ある用途として社会通念上通用し承認されうるものであり、かつ原則としてその用途が現に通用し承認されたものとして実用化されている必要があると解すべきである。

けだし、これに反し「他の用途」を前記特許法一〇一条二号所定の「使用」と別異に広く解すると、同法条号の適用範囲を徒らに狭くし、ひいては折角のその立法趣旨を没却することになるからである。

2  これを本件についてみるに、被告らの主張する「他の用途」(被告らの主張二の(1)ないし(6)の用途)のうち、(1)ないし(5)の用途については、被告らの立証(<証拠判断略>)をまつまでもなく、イ、ロ号物件がこれらの用途に使つて使えなくはないことは経験則上明らかである。しかし、原告も主張立証するとおり、(1)ないし(4)の用途(室内装飾用等)には本来の物(商品)としてかねてから各種の押ピンがあり(<証拠>参照)、(5)の用途(コードの室内配線用)には同じくステツプルがあり、(<証拠>参照)、これらがその用途に最も適合していることが明らかである反面、いまイ、ロ号物件をこれらの用に供するときは、柱状圧着材③の緑色の半透明着色によつて美観を呈することはあるとしても(ただし、押しピン、ステツプルでも同様のことは可能)、圧着材の③の本来の機能である圧着作用を活用しているわけではなく、また(1)ないし(4)の用途では押しピンと異なり釘打ち作業を必要とし、かつ釘①が長いためその頭が通常出たままで不安定であり、人の手足に引つかける危険性もある点において、また(5)の用途についても以上のほか釘①がフイーダー線内部の綱線に当ることによる危険性もある点(<証拠>参照)等において前記既製商品に比し機能面において全体として劣るところがあり、これを越えるものとは言い難い。すなわち、イ、ロ号物件は要するに「圧着」材を付した直径0.9ミリメートル、長さ二二ミリメートルの「釘」であつて、被告ら主張の前記のような用途は未だ実用性ある本来の用途として承認され定着しうるものということのできないものである。のみならず、イ、ロ号物件のこれらの用法が現実に一般的に通用定着しているとも解し難い。<証拠>によると現に本件イ、ロ号各物件が散発的にこれらの用途に用いられていることも窺われないではないが、なお一般的な通用を証するものとは言い難い。もつとも、<証拠>等によると、被告大阪ロイヤルにおいては昭和五一年六月七日の業界誌「電線新聞」にイ号物件の広告をし、同物件を「万能かり止めくぎ」と謳い、「電線、TVアンテナコードの屋内配線用として従来のステーブルにかわる!」としてその販売代理店を募集しているほか、イ号物件の包装箱にも「合板、ボードの仮止め用」のほか「室内装飾用」等被告ら主張の用途を列記し「万能釘」であると謳つていることが認められるけれども、右の事実だけで前示のような用法の実態自体に関する判断を左右することはできない。かえつて、前記<証拠>等によつても、イ、ロ号物件はたとえば一箱二、〇〇〇本入とか一、五〇〇本入となつて、その量の点で被告ら主張のような主として家庭用または商店陳列用の用途としては適しくなく、かえつて本件特許方法実施のために適わしい大量販売を目論んでいるように思われる。また、<証拠>によると、原告側の商品「かり釘」においては被告ら主張のような用途には一向売り捌けず、専ら建築金物問屋を介して本件特許方法実施のために大量に売却されていることも認められる。

次に被告ら主張の(6)の用途(雨戸樋の取付具の補助ピンとしての用法)についても、<証拠>を総合すると、右補助ピンなるものは本訴提起後である昭和五三年九月ごろ雨戸樋保持具の卸販売を業とする株式会社山本興業が右保持具の取付けにさいし補助ピンを使うことを考え、被告国際鋲螺に特別に注文加工を依頼したというのであつて、本件イ号はもとよりロ号物件とも異なるものであることが認められる(補助ピンの釘は太さ1.4ミリメートル、長さ一六ミリメートルであるのに対し具体的なイ、ロ号物件の釘①は太さ0.9ミリメートル、長さ二二ミリメートルである。)から、右補助ピンの用法をもつて本件イ、ロ号物件の「別の用途」であるとすることはその前提においてすでに失当である。

3  他に本件イ、ロ号物件の「他の用途」が存するとの主張立証はない。

そうすると、被告らのイ、ロ号物件は原告の本件方法特許発明の実施にのみ使用する物というべきである。<以下、省略>

(畑郁夫 中田忠男 小圷眞史)

別紙目録(イ)(ロ)<省略>

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